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2003年度(2003.4~2004.3) ワークショップ講演
■第8回ワークショップ(2003年6月5日開催)
●テクノロジーシードインキュベーション(株)(TSI) 代表取締役社長 徃西(おうにし)裕之氏
タイトル :「足」でマッチングするプロジェクト・インキュベーション
キーワード : インキュベーション、大学発ベンチャー、 ベンチャーキャピタル、創業、京都
1.ゲストスピーカーの概要
徃西社長は、大学卒業後入社した、アセアン諸国向けベンチャー投資を行なっていた日本の大手 ベンチャーキャピタル(VC)にて、同社が開始した日本国内でのベンチャー投資業務を担当することに なった。大阪、東京、仙台でベンチャーキャピタリストとしての業務を行なう中で、業界紙を見て気に なった企業に、断わられるのを覚悟で多数訪問した経験が、現在の仕事に活かされている。 2002年、京都大学を中心とした大学教授及びベンチャーファンドからの出資を受け、TISを設立し、 代表取締役を務めている。

事業内容を説明する徃西社長
2.講演内容―「足」でマッチングするプロジェクト(PJ)インキュベーション
(1)創業のきっかけ
アメリカと違い、わが国では大学や研究機関の頭脳集積が新規創業に活かされず、ベンチャー投資はサービス業中心であった。というのも、技術は理解しがたく、技術出身の経営者の説明不足なども原因である。前職のVCで大学発ベンチャーへの投資ファンドを作ったが、単にVCとして投資するだけでは不足していることも多い。そこで、2002年4月に、自ら大学発ベンチャーを支援する会社を京都で創業した。サラリーマンならば、入社時からインフラが何でも揃っているが、独立は本当にゼロからの出発である。電話を引く、事務所を借りる、人を雇う、社会保険をかける等々。 しかしながら、これらを司法書士などに任せるとかなりの経費がかかる。 昨今は会社設立のためのマニュアル本やCD-ROMなども出ているので、せめて法務局への会社設立登 記くらいは自分でした方が良い。当社は資本金4千万円で設立したが、自分でできるだけの手続きを行っても50万円弱かかった。1期目の決算は売上が2900万円程度で、赤字となった。このとき、ベンチャーキャピタル投資とインキュベーションは違うと思い、別の手法を採ろうといろいろ模索した結果、VC時代に経験した企業ヒアリングのノウハウを活用し、「足」で回るマーケティングを実践していくことにした。なお、現在の資本金は1億1553万円で、株主数は45名となって いる。
(2)日本のベンチャー投資の現状
表向きはアーリー・ステージ、ハンズオン型、技術系企業や大学発ベンチャーと言われているが、 本音ベースでは、投資家へのリターンを確保するためにIPOまでの期間が短いレイター・ステージの 方が好まれるし、ハンズオン型投資もVC自身に経営ノウハウが欠如しているために困難である。 また、技術の理解はできても評価ができず、加えて大学発ベンチャーをやっている大学教員には事業化およびビジネスモデルの話が不得手な人が少なくなく、ビジネスにつながらない。
(3)ベンチャー企業を創業する人の需要
独立すると何かと不安材料が多い。そのため、「言葉が通じる」夫婦や兄弟、あるいは同僚で創業するケースが少なくない。創業するにあたっては、世の中の役に立つなど高邁な理想を掲げるよりも、大金持ちになりたいとか、有名になりたいなど五感に訴える欲求を持つ方が不安との葛藤を克 服しやすい。また、ベンチャー創業時には「生活の不安」「営業と開発の両立」や「必要資金の調達」といったいわば周りから見れば「都合のよい」問題に直面するので、当社にとっての需要が生まれている。
(4)PJインキュベーション
当社のビジネスモデルは、初期段階にある外部シーズと、事業化ニーズを持つところとをマッチン グして社内開発PJとしてスタートさせることである。すなわち、起業家が有しない経営資源を集めてきて、早期に事業を立ち上げる。その場合、大学研究者やTLOからの研究成果を注入することもあり、各大学の産学連携推進室にも働きかけている。また、資金面の協力者を募る方法を採用して いるので、当社が必要資金の全額を拠出しないでリスクを分散している。 要するに、当社はPJリーダーやマーケティング・リーダー等のヒト、研究開発場所や装置等のモノ、 当社の自己資金や共同開発先やベンチャー・ファンドからのカネという経営資源を集めて事業のPJ メイキングを行うわけである。なお、出口(Exit)戦略としては、持込企業への売却、他企業への売却、あるいは新会社の設立があり、これらにより資金回収を行う。 例えば、現在企画中のPJの1つに「脳波を利用した健康管理キットの開発」があるが、第一ステージ で3000万円必要なので、20社程度をまわって共同資金供負担を依頼している。これらの活動を通じて、予定より安価に開発できる等の逆提案を受けることもあり、開発PJにフィードバックしている。
(5)創業して感じたこと
(1)人間1人では何もできないことがわかった。1人では近視眼的になるので、事業遂行には協力者が不 可欠である。人的ネットワークの重要性を痛感した。
(2)うるさい意見を言ってくれる人ほど大切にすべきである。
(3)耳障りの良いことばかり言う人とは付き合わないほうが良い。社長は、社外では責められることが 多いため、外部の人に褒められることがあると心地よいが、舵を取り違えることがあるので用心が必要である。
そして何より、経営というものは、実際に自分でやってみないとわからないものであるということである。 VCや金融機関の人は、評論は出来ても実際の経営は何も知らないことが多い。
3.Q&A(質問に対する徃西社長からの回答)
(1)PJメンバー間の温度差対策
非常に難しい問題である。リーダーが誰かによるわけで、リーダーが調整役になる。なお、PJは期間と予算を決めてから実施している。納期遅れは許されないので、当社は悪者扱いされるケースもある。
(2) 大学発ベンチャーの障害
常に様々な障害が付きまとう。というのは、各大学で学内ルールが存在しているからである。ある国立大学教員が、1年間かけて大学当局や文部省と交渉したものの、企業の代表取締役に就任できなかったケースもある。PJリーダーやサブリーダーは社長候補者が担当するのがベターであるが、実際の大学発ベンチャーの社長は大学教員の配偶者や兄弟が就任しているケースが多い。
(3)PJメイキングのポイントとキーマン
ネタ(シーズ)のステージにより異なるが、出口のニーズに合うようにPJを仕上げている。例えば、指紋認 証システムのケースを例にとると、大学教員の研究とセキュリティやカード認証等の利用用途との間のプロトタイプ作りをターゲットにしている。キーマンは、持ち込んだ会社の部長の場合もあるし、ケース・ バイ・ケースで異なる。
4.討論:「産学連携とベンチャー企業の成長」
院生からは、
(1)ヒト、モノ、カネ、マーケティングの組み合わせ、
(2)PJメイキングの仕方、
(3)堅実経営、
(4)ターゲットの絞込みが素晴らしいという意見が見られた。
教員からは、
(1)足によるマーケティング、
(2)PJインキュベーションというビジネスモデル自体への評価が高かった。その他、海外先進事例として、米 国RCT(NPO)やドイツのシュタインバイス財団の紹介があった。

徃西社長を囲んで集合写真
以上
記録担当院生:寺西章江・深堀謙二
