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2007年度(2007.4~2008.3) ワークショップ講演
■第14回ワークショップ(2008年1月17日開催)
●ゲストスピーカー:関西外国語大学教授 老舗学研究会代表 前川 洋一郎氏
タイトル:「老舗から学ぶ日本式経営の伝統と倫理」
1.前川洋一郎先生の略歴
神戸大学経営学部卒業。松下電器産業株式会社入社、経営企画室長、IT教育研究所長、eネット事業本部長など歴任。取締役に就任、渉外担当役員を経て、現在客員。
2006年高知工科大学大学院教授。現在客員教授。
2007年関西外国語大学国際言語学部教授。博士(学術)。
2.講義内容
問題意識
今 なぜ老舗に学ぶ必要があるのか。経済の好不況は避けられない。経営に上がり下がりはつきもの。経営に人間が係わるとなかなか難しい。このような中で老舗の存在はベンチャー企業の原点であり、長年経営を持続してきた老舗を分析する事は意義があると思い、老舗の研究を始めました。次の5つの問題意識から、話を進めます。
1. 企業・組織の生成とPDCサイクル:老舗はPDCをきちっと廻しています。チャンスを生かし、ガバナンスをしてリスクを回避し、不祥事を起さないようにコンプライアンスして持続する。そして技術のコアコンピタンスを育て磨く。このPDCサイクルを廻して、長寿企業になる。
2. 突然の不祥事とリスクマネジメント:PDCサイクルを怠った事によって、過去に企業組織の不祥事が数多くありました。老舗も例外ではない。
3. 企業組織の寿命:企業の存在価値は持続する事である。利益を出して、税金を払い、雇用を作り出すことは本義であるが、そのためには持続する事が大事である。
4. 持続への期待:企業は進むも退くも持続が大切である。企業は小さくなっても持続する事が大事です。拡大は必ずしも正解ではない。
5. 保守と改革の守成:世代交代して持続するとき、保守と改革とを組合わせて成長するのが本当のCSRである。パフォーマンスだけではいけない。
老舗の概念・イメージ
70年、80年続いている企業でも老舗ではありません。老舗は「shinise」の和製英語になっています。老舗とは数代以上引き続いて永続繁盛している店、企業のことです。学術的には300年以上続いていることと考えてます。一般的には100年を区切りとして老舗と定義しますが 100年でも最低3代はかかります。
業種もドメインの変化はあってもコアコンピタンスを継承しているものを対象としています。例えば岡山の林原さん、山科の福田金属箔粉さんなどです。老舗の規模も考慮しました。中小企業と零細商店を視野にしています。
老舗学研究会は創業以来長期にわたって事業を継承してきた企業等がどのような経営理念と経営技術をもって事業運営を行ってきたのかを「老舗学」として研究します。そのことにより、長期にわたり事業運営を目指す上で必要な経営知識を学問としてまとめ、その知識を普及、啓発し、ひろく老舗自体の事業活動及び地域産業の発展、新規ベンチャーの育成や社会貢献の一助となることを目的に、平成17年に研究会を作りました。
平成18年に「老舗学」の確立に向けて、「企業の持続的要因解明に関する基礎研究」を発表しました(同時に、「老舗学」を登録商標しました)。調査は創業以来300年以上を超える組織を対象に369社にアンケート送付しました。多変量解析の結果は 第1因子.サプライチェーン重視型9.3%(川上重視) 第2因子.新時代感覚取込み型8.4% 第3因子.コアコンピタンス依存型7.7% 第4因子.伝統・和親一致型7.6% 第5因子顧客大事イメージ重視型 第6因子家憲・遺訓遵守型7.2% 第7因子本業専心墨守型6.6パーセントであった。
これから分る事は、老舗には「不易」と「流行」があります。しなやかに迅速に苦情対応する、組織の風通し、暖簾・ブランドイメージを重視して継続する「不易」と、多角化への対応か本業重視か、所有と経営は分離か一体か、創業家から経営トップか専門経営者か、株式公開か非公開かの「流行」である。結果としてしたたかに、やって来て、長寿になっていましたというのが老舗です。
老舗からみる企業経営のコツ
「もうかりまっか」という言葉は「ぼちぼち」、「たまたま」、「ほどほど」、「そこそこ」で、そこに、「したたか」、「らしく」、「しなやか」の意味あいがあり、最後に世間さまの「おかげで」という言葉で表現します。老舗の本質は「のれんに腕押し」、「糠に釘」です。
日本的経営のよさは組織の社会的責任を重視し、渋沢栄一のいう「道経一体」と中国古典の「守成」にみられます。これは現場において答えをだす、「実学」の伝統です。石田梅岩の適正利益が重要であるという考えや二宮尊徳の「報徳思想」の考えから始まります。そして廣池千九郎の「三方よし」の考えや松下幸之助の適正利益で国家社会に還元するという考えに通じます。企業は持続する事が重要です。持続とは「守成」です。創業のあとをうけて、その成立した事業をかため守ることです。「守成」には保守・伝統と改革・開拓の舵取りが大切であり、不易・流行で、持続・繁栄することが守成であります。
今日、CSRといわれるが、なんといっても企業の持続がステークホルダーにとって最も重要です。創業から「守成」への切換えが大切です。日本式経営か欧米式経営かといわれますが、グロ-バルスタンダートの言葉に振り回されず、日本では日本型の経営を貫くことです。
老舗の持続してきた理由はこれまで「よい製品」・「よいサービス」・「よい商売」の提供により、本業に徹して顧客の役に立ってきたことです。そして、継承する人を育ててきたことです。奢りが企業の持続性を失わせます。品格、品性が必要です。品質管理よりも人質管理が重要です。
3.質疑応答
Q1.老舗に興味をもたれた理由と国内の老舗がメインですか。
A1.松下電器にいる時に、暇な期間に社史室に2年間入り浸りになり社史を勉強しました。その後経営史学会に入会して、老舗学の研究を始めました。欧州にも200年、イギリスにも300年の老舗ネットワークはあります。韓国、中国に老舗はみかけません。ただファミリービジネスネットワークはあります。海外は研究範囲に入れていません。
Q2.松下電器からパナソニックに変更することは老舗学的にはいかかでしょうか。
A2.松下電器は創業90年で老舗ではありません。20年前から検討の土俵に乗っていました。3~4代目の社長は悩んでいました。マツシタは外国人に発音しにくいのです。グローバル展開や海外のIRでは困ることがありましたね(上場社名と商品名が違う)。老舗の場合家紋はそのままで、ブランド屋号を変えていく例があります。やはり全世界のステークホルダーの一致団結には そしてお客様の印象と信用も集中するには乾坤一擲ですね。なお株券の電子化がはじまり、株券がなくなります。このことはよい機会ですね。
Q3.吉兆は一人の息子と四人の娘に引き継がせました。湯木さんの考えはどうでしたのでしょうか。
A3.子供の数だけ分けられるなら分けたい。湯木さんはタスキを四ツに分けた。駅伝リレーのタスキや商売の扇の要は分けられないですね。対等に分けるより、料理の極意の継承統治を明確にするためにも 本家分家の関係にしたほうがよかったように思う。なお吉兆さんは創業70数年で老舗ではありません。これから老舗に向かっていかれるわけです。皆さん 応援してあげてください。
Q4.老舗は一八世紀中ごろからですか、地域的にはどうですか。
A4.最古は 1400年の金剛組ですが、研究対象は石田梅岩の時代の元禄時代から以前です。北海道には100年前後の老舗しかありません。京都が一番多いところです。経営資源の多い処、水のきれいな処、米の多い処です。温泉や社寺がある処、交通インフラ 街づくり行政のしっかりしている処に多いです。
Q5.二宮尊徳、二宮金次郎の銅像は教育上の方針であったのですか。赤福は単品だけをあつかっています。一保堂はお茶。駿河屋は羊羹。しかし龍村織物は帯などが廃れたときは毛皮などの品物もあつかっています。これはどのように考えられますか。
A5.戦前はどこの学校にも二宮尊徳の銅像がありました。修身の教科で勤勉実直を教えていた。今ちょっとしたブームになってますが 現在のわれわれにはよい教えですね。老舗ブランドの経営戦略の第1はコアコピタンスです。龍村織物のドメインが衣料品であればコアコンピタンスはなにか。一品が二品になってもいいと思います。
以上
記録担当院生 上野 亮・追矢 史郎
